域内市場白書:欧州統合への道
域内市場白書、正式名称『域内市場完成のための白書』は、1985年に欧州共同体(EC)により発表された、真の単一市場実現に向けた設計図です。この白書は、加盟国間の貿易の壁を取り払うだけでなく、人、物、サービス、資金が国境を越えて自由に移動できる、真に一体となった市場を作り上げるという壮大な構想を示しました。これは、単なる物品の取引にとどまらず、人々の移動や労働、企業活動、投資など、あらゆる経済活動が域内でシームレスに行われることを目指したものでした。
この白書が発表された当時、EC域内には様々な障壁が存在していました。例えば、国ごとに異なる製品の規格や認証制度、複雑な通関手続き、サービス業に対する参入規制などです。これらの障壁は、域内貿易を阻害し、企業の競争力を低下させ、ひいては域内経済全体の成長を妨げる要因となっていました。白書は、これらの障壁を撤廃するための具体的な行動計画と期限を提示しました。300を超える具体的な提案は、物品の自由移動、資本の自由移動、サービスの自由移動、人の自由移動の4つの分野にわたる多岐にわたるものでした。
1992年末を目標年としたこの計画は、加盟国にとって大きな挑戦でした。各国は、自国の法律や制度を改め、EC全体で統一されたルールを受け入れる必要がありました。これは、各国の主権の一部をECに譲渡することを意味し、国内では反対の声も上がりました。しかし、域内市場の完成は、新たな成長の機会をもたらすと期待されていました。障壁の撤廃により、企業はより広い市場で競争し、消費者もより多くの選択肢とより低い価格で商品やサービスを入手できるようになるからです。
この白書は、欧州統合の進展において極めて重要な役割を果たしました。白書で示された計画は、その後の欧州連合(EU)の形成に大きな影響を与え、現在のEUの礎を築く上で欠かせないものとなりました。域内市場の完成は、欧州経済の活性化に大きく貢献し、EUの世界的な地位向上にも繋がりました。