国民経済計算の歴史:68SNAとは
投資の初心者
先生、「68SNA」(1968年に国際連合統計委員会で採択された国民経済計算)って何ですか?なんだか難しそうでよくわからないです。
投資アドバイザー
そうですね、少し難しいですね。簡単に言うと、国のお金の流れを把握するための共通ルールのようなものです。色々な国で経済状況を比べるために、計算方法を統一したんです。
投資の初心者
国のお金の流れを把握する…ということは、国の収入や支出を計算するためのルールってことですか?
投資アドバイザー
その通りです。例えば、国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)といった指標も、この68SNAに基づいて計算されています。国同士の経済状況を比べる際に、同じ物差しを使うことで、より正確な比較ができるようになるんですよ。
68SNAとは。
投資に関係する言葉「68SNA」(1968年に国際連合の統計委員会で決められた国民経済計算のことです)について説明します。
国民経済計算の登場
世界恐慌や第二次世界大戦といった未曽有の危機を経て、世界経済は大きな混乱に陥りました。荒波にもまれる世界経済を立て直し、そして、安定した成長の道筋を描くためには、各国経済の実態を正確に把握することが何よりも重要となりました。こうした切実な必要性に応える形で登場したのが、国民経済計算、すなわち国民経済計算体系(SNA System of National Accounts)です。
国民経済計算は、一国の経済活動を網羅的に記録し、多角的に分析するための統計的な枠組みを提供します。物やサービスの生産、所得の分配、そして家計による消費といった経済活動の主要な側面を体系的に捉え、国内総生産(GDP)をはじめとする重要な経済指標を計算するための統一的な基準を定めています。この基準を設けることによって初めて、異なる国や地域の間でも経済状況を比較分析することが可能になるのです。
この国民経済計算によって、政策を立案する立場にある人たちは、経済状況を客観的に評価し、適切な政策を決定するための確固たる根拠を得ることが可能になります。まるで船の羅針盤のように、国民経済計算は政策担当者を正しい方向へと導く役割を果たすと言えるでしょう。さらに、国際的な比較分析も容易になるため、世界経済全体の動きを理解する上でも国民経済計算は必要不可欠なものとなっています。
1968年に導入された国民経済計算体系(68SNA)は、この国民経済計算の体系を国際的に統一するための重要な第一歩となりました。これにより、世界各国が共通の土俵で経済状況を比較検討できるようになり、国際的な協調や経済政策の立案がより円滑に進む基盤が築かれたのです。
項目 | 説明 |
---|---|
国民経済計算 (SNA: System of National Accounts) | 一国の経済活動を網羅的に記録・分析する統計的枠組み。物やサービスの生産、所得の分配、家計消費といった経済活動の主要側面を捉え、GDPをはじめとする経済指標算出の統一基準を定めている。 |
目的 |
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メリット |
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1968SNA | 1968年に導入された国民経済計算体系。国際的に統一された体系であり、世界各国が共通の土俵で経済状況を比較検討できる基盤を築いた。 |
68SNAの策定
昭和四十三年、国際連合統計委員会は、画期的な成果として国民経済計算体系一九六八年(六八エスエヌエイ)を採択しました。これは、世界各国でまちまちだった国民経済の計算方法を統一するための初めての試みであり、国際的な経済統計を比較できるものにする上で重要な役割を果たしました。六八エスエヌエイ以前は、各国が独自の基準で経済統計を作成していたため、国際比較が難しかったのです。共通の物差しがない状態では、経済の規模や成長率などを正確に比較することができませんでした。
六八エスエヌエイは、基本的な考え方や定義、計算方法を標準化することで、この問題の解決に大きく貢献しました。これにより、各国の経済の成果をより正確に比較分析できるようになり、国際的な経済協力や政策の足並みを揃えるための基盤が築かれました。各国が同じ物差しを使って経済統計を作成することで、初めて真の意味での国際比較が可能になったのです。
また、六八エスエヌエイは、生産、分配、消費といった経済活動の全体像を把握するための枠組みを提供しました。これは、一国の経済状況を分析するだけでなく、国際的な経済の動きを理解するためにも不可欠なものです。世界全体の経済活動を体系的に捉えることで、国際的な経済問題への対応や、世界経済の安定的な発展に貢献することができるのです。
さらに、六八エスエヌエイは発展途上国における統計整備の指針としても活用されました。統計基盤が未整備な国々にとって、六八エスエヌエイは経済統計を作成するための手引書となり、自国の経済状況を把握し、適切な経済政策を立案する上で重要な役割を果たしました。これは、世界経済の全体像を把握し、国際協力を推進する上でも大きな意味を持ちました。
時代 | 課題 | SNA導入による変化 | 効果 |
---|---|---|---|
SNA導入前 | 各国独自の経済統計基準のため、国際比較が困難 | 国際連合統計委員会がSNA(国民経済計算体系1968)を採択 |
|
SNA導入後 | 国際的な経済協力や政策の足並みを揃える基盤不足 | 基本的な考え方、定義、計算方法の標準化 |
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68SNAの構成
68SNA(国民経済計算体系)は、一国の経済活動を大きな網から小さな網へと段階的に捉える、精巧な仕組みです。生産、消費、分配、蓄積という経済の主要な流れを網羅的に把握できるように設計されています。これは、まるで人体を理解するために、骨格、筋肉、血管、神経など、様々な器官の働きを一つ一つ調べていくようなものです。
この体系の中心となるのは、国民経済全体の生産活動の成果を示す国内総生産(GDP)や、国民が得た所得の合計を示す国民総所得(GNI)といった指標です。これらの指標は、経済の健康状態を測る体温計のような役割を果たします。68SNAは、これらの指標を正確に計算するための方法を細かく定めています。どの経済活動をGDPに含めるのか、どの所得をGNIに算入するのか、といったルールが明確に決められているのです。
さらに、68SNAは産業別、部門別、そして国際取引といった様々な角度から経済活動を分析するための勘定体系も提供しています。これは、経済という複雑な機械の内部構造を詳細に分析するツールキットのようなものです。例えば、農業や製造業といった産業別の生産額や、家計や政府といった部門別の支出などを把握することができます。また、輸出入といった国際取引についても詳細なデータを得ることができ、世界経済との繋がりを理解する上で重要な役割を果たします。このように、68SNAは経済の全体像を把握するための地図を提供してくれるのです。
加えて、68SNAはデータの収集方法や分類基準についても細かく規定しています。これは、異なる国や地域で集められた経済統計を比較できるようにするための共通言語のようなものです。統計の信頼性と国際比較可能性の向上に大きく貢献し、世界中の経済学者や政策担当者が同じ土俵で議論することを可能にしています。この結果、政策立案者はより確かな情報に基づいて政策を決定できるようになり、経済の安定した成長へと繋がっていくのです。
概念 | 説明 | 例え |
---|---|---|
68SNA(国民経済計算体系) | 一国の経済活動を包括的に捉える体系。生産、消費、分配、蓄積といった経済の主要な流れを網羅的に把握。 | 人体を理解するために器官の働きを一つ一つ調べていくようなもの |
GDP(国内総生産)、GNI(国民総所得) | 経済の健康状態を示す主要指標。68SNAはこれらの指標を正確に計算するための方法を規定。 | 経済の健康状態を測る体温計 |
勘定体系(産業別、部門別、国際取引) | 経済活動を様々な角度から分析するためのツール。 | 経済という複雑な機械の内部構造を詳細に分析するツールキット |
データの収集方法、分類基準 | 異なる国や地域で集められた経済統計を比較可能にするためのルール。 | 統計の信頼性と国際比較可能性を向上させる共通言語 |
68SNAの限界と改訂への道
1968年に国連によって定められた国民経済計算体系(SNA)は、一国の経済活動を体系的に記録し、分析するための画期的な枠組みでした。この68SNAは、各国の経済統計の標準化に大きく貢献し、国際的な比較を可能にすることで世界経済の理解を深める上で重要な役割を果たしました。しかし、時代が進むにつれ、経済の構造や活動内容が大きく変化し、68SNAの枠組みでは対応しきれない部分が出てきました。
特に大きな変化として、サービス産業の拡大が挙げられます。モノづくり中心の経済から、サービス提供中心の経済へと移行する中で、サービスの生産性を適切に測る手法が確立されていませんでした。68SNAはモノの生産を測ることに重点が置かれていたため、サービス経済の実態を正確に反映することが難しくなっていました。また、国境を越えた企業活動の活発化も大きな変化でした。企業が世界中に拠点を構え、資金や技術が自由に移動する中で、国際的な資本移動の実態を正確に把握することが重要性を増しました。しかし、68SNAでは、このような複雑な国際取引を十分に捉えきれていませんでした。さらに、コンピューターソフトウェアや特許権といった無形資産の価値が経済活動において重要性を増してきたにもかかわらず、68SNAでは無形資産を適切に評価する仕組みが備わっていませんでした。
これらの限界を克服するため、1993年に68SNAの大幅な改訂が行われ、93SNAが誕生しました。93SNAでは、サービスの生産性の測定方法が改善され、国際的な資本移動の把握もより精緻になりました。また、無形資産の評価についても新たな基準が導入され、経済の実態をより正確に反映できるようになりました。これらの改訂により、各国の経済統計の比較可能性が向上し、政策立案や経済分析の精度を高めることに大きく貢献しました。93SNAは、変化する経済環境に合わせた統計体系の重要性を示す好例と言えるでしょう。
SNAバージョン | 年代 | 特徴 | 課題 |
---|---|---|---|
68SNA | 1968年 | モノづくり中心経済に対応、国際比較を可能にする標準化 | サービス経済、国際資本移動、無形資産への対応不足 |
93SNA | 1993年 | サービス生産性測定の改善、国際資本移動の精緻化、無形資産評価基準の導入 | (記載なし) |
その後の改訂と発展
国民経済計算の体系、すなわち国民経済の状況を大きな視点から捉えるための枠組みは、1993年に定められた93SNA(国民経済計算体系1993年版)の後も、変化し続ける経済の実態に合わせて、常に改良され続けています。例えば、2008年に世界を揺るがした金融危機を受け、金融の仲介サービス、つまりお金を必要なところに仲介する働きをどのように測るかという方法が見直されました。この見直しも、SNAの絶え間ない改良の一つです。
また、世界規模での経済活動の結びつきが深まるにつれ、世界共通の統計の物差しを揃えることがますます重要になってきています。各国は、最新のSNAに準拠して統計の整備を進めており、これは、まるで世界中の人々が同じ物差しを使って経済活動を測ることで、より正確に世界の経済状況を理解しようとする試みと言えます。
このように、SNAは継続的な見直しと発展を繰り返すことで、世界経済の構造変化、つまり経済活動の仕組みや繋がり方の変化を的確に捉え、常に最新の経済状況を把握するための重要な道具としての役割を担い続けています。これは、変化の激しい海を航海する船にとって、常に最新の海図が不可欠であることと似ています。SNAという海図は、私たちが複雑な経済の海を理解し、航海するための羅針盤と言えるでしょう。
そして、経済のグローバル化や情報技術の進展といった、経済活動の新たな流れに合わせ、SNAは今後も進化し続けることが期待されています。まるで生物が環境の変化に適応するように、SNAもまた変化する経済という環境に合わせて、より精緻で、より有用な道具へと成長していくことでしょう。
SNAの進化 | 説明 | 例え |
---|---|---|
金融危機への対応 | 金融仲介サービスの測定方法見直し | – |
世界共通の物差し | 各国が最新のSNAに準拠した統計整備 | 世界中の人々が同じ物差しを使う |
継続的な見直しと発展 | 経済構造変化を的確に捉え、最新の経済状況を把握 | 常に最新の海図を持つ |
将来の進化への期待 | グローバル化や情報技術進展への対応 | 生物の環境適応 |
68SNAの意義
1968年に国連によって導入された国民経済計算体系(68SNA)は、世界経済の理解と分析に革命をもたらしました。それまでの経済統計は、国ごとにばらばらで、比較や分析が難しかったのです。68SNAは、初めて国際的に統一された基準を設けることで、各国経済の比較可能性を高め、世界経済の全体像を把握することを可能にしました。
68SNAの大きな功績の一つは、生産、分配、支出という経済活動の三面等価の原則を明確に示したことです。これは、一国の経済活動を様々な角度から計測することで、その経済の構造や活動水準をより正確に把握できるという考え方です。この原則は、その後のSNA改訂版にも受け継がれ、現代の経済分析の基礎となっています。
68SNAはまた、経済成長、インフレ、雇用など、主要な経済指標の算出方法を標準化しました。これにより、各国は同じ基準で経済指標を計算・公表することができ、国際的な経済協力や政策協調を円滑に進めることができるようになりました。例えば、ある国の経済成長率が他国と比べて高いのか低いのか、国際的な比較が可能になったことで、各国は自国の経済状況を客観的に評価し、適切な政策を立案することができるようになったのです。
さらに、68SNAは、環境問題や社会福祉といった、従来の経済統計では十分に捉えられていなかった要素を考慮するための基盤を築きました。これは、経済活動が環境や社会に与える影響を分析し、持続可能な発展を目指す上で重要な一歩となりました。
68SNAは、その後のSNA改訂の土台となり、現代経済社会においてますます重要性を増す国民経済計算の進化に大きく貢献しました。68SNAの登場は、まさに経済統計における革命的な出来事であり、その歴史的意義は、現代の我々にとっても深く学ぶべき点が多いと言えるでしょう。
特徴 | 説明 |
---|---|
国際的な統一基準 | 各国経済の比較可能性を高め、世界経済の全体像把握を可能にした |
三面等価の原則 | 生産、分配、支出の3つの側面から経済活動を計測し、経済構造や活動水準を正確に把握 |
主要経済指標の標準化 | 経済成長、インフレ、雇用などの算出方法を標準化し、国際比較や政策協調を促進 |
環境・社会要素の考慮 | 環境問題や社会福祉といった要素を考慮するための基盤を築き、持続可能な発展に貢献 |
その後のSNA改訂の土台 | 現代経済社会の国民経済計算の進化に大きく貢献 |