ケインズ経済学入門：市場メカニズムと有効需要

ケインズ経済学入門：市場メカニズムと有効需要

市場メカニズムの限界

市場の働きには、価格の変動だけで需要と供給の釣り合いがとれるわけではないという限界があります。昔からある経済の考え方では、物やサービスの値段が変わることで、需要と供給は自然と調整されると考えられてきました。しかし、物価が上がったり下がったりしにくい場合もあると指摘したのが、ケインズという経済学者です。

彼は、賃金や物価は硬直的、つまり簡単には変わらないため、需要と供給のズレは値段ではなく、生産量や雇用といった量の変化で調整されると考えました。これを「量の調整」と呼びます。具体的に説明すると、商品が売れ残っている時、会社は値段を下げるよりも、作る量を減らして在庫を調整しようとします。

また、働く人の世界でも、賃金はそう簡単には下がらないため、仕事を求める人が多くても仕事がない状態、つまり失業という形で需要不足が現れます。

ケインズはこのように、市場メカニズムは完全ではなく、常にうまくいくとは限らないと考えました。そして、経済がうまくいかない時には、国が積極的に働きかける必要があると主張しました。例えば、需要が不足している時には、国が公共事業などにお金を使うことで、需要を作り出し、経済を活性化させるべきだと考えました。これは、従来の経済学とは大きく異なる考え方であり、その後の経済政策に大きな影響を与えました。

有効需要の原理

経済活動を活発にするには、人々が商品やサービスを欲しいと思う気持ち、つまり需要がどれほどあるかが大切です。この考え方を詳しく説明するのが「有効需要の原理」です。これは、有名な経済学者ケインズが提唱した考え方で、現代の経済学でも重要な役割を担っています。

企業は、将来どれくらい売れるかを予想して商品を作ります。しかし、読みが外れて思ったよりも売れ残りが出てしまった場合、企業は損をしてしまいます。そこで、次の生産からは量を減らし、在庫を減らそうとします。逆に、商品が飛ぶように売れ、生産が追いつかない場合はどうでしょうか。企業は利益を増やすため、より多くの商品を作るでしょう。そして、より多くの人を雇う必要も出てきます。このように、経済全体の生産量は、人々の需要によって左右されるのです。人々が商品を欲しいと思わなければ、企業は商品を作りませんし、雇用も増えません。経済は停滞してしまうでしょう。

少し前までは、「供給が需要を生み出す」という考え方が主流でした。これは、商品を作れば、それを買いたい人が自然と現れるという考え方です。しかし、ケインズは需要こそが経済を動かすと考え、需要がなければ生産は行われないと主張しました。人々が商品を買いたいと思わなければ、どんなに良い商品を作っても売れ残ってしまい、経済は活性化しないのです。

「有効需要の原理」は、政府が経済にどのように関わっていくべきかを示唆しています。人々の需要が不足している時に、政府が公共事業などでお金を使うことで、需要を作り出し、経済を活性化させることができるのです。この考え方は、世界恐慌からの脱出に大きく貢献し、今もなお経済政策を考える上で重要な役割を果たしています。

超過供給と経済

経済が需要よりも供給がはるかに上回る状態、これを超過供給といいます。有名な経済学者、ケインズはこの状態を経済を考える上で重要なものとして取り上げました。ものを作る力、つまり生産能力が人々の欲しい量を大きく超えてしまうと、工場で作られた品物は倉庫に山積みになり、せっかくの設備も動かすことなく眠ったままになってしまいます。

このような状況では、企業は働く場所を提供できなくなり、人々は仕事を失います。仕事を求める人が増え、失業者が街にあふれることになります。企業は売れない商品を少しでも高く売ろうとするよりも、むしろ作って売る量自体を減らそうとします。なぜなら、価格を下げて無理に売ろうとしても、需要が増えないと考えたからです。

需要が伸びないまま、企業は生産を縮小し続け、ますます雇用は減っていきます。給料をもらえる人が減れば、当然、買い物をする人も減り、さらに需要は冷え込みます。こうして経済全体が縮小していく悪循環に陥ってしまうのです。ケインズはこの悪循環を断ち切るには、政府が積極的に需要を作り出す必要があると主張しました。例えば、大きな公共事業を起こせば、仕事が増え、人々に給料が支払われます。人々は受け取った給料で買い物をするようになり、経済は再び動き出すと考えられます。まるで停滞した車のエンジンを大きな力で押し出すように、政府が需要という勢いを与えることで、経済全体を活気づけると考えたのです。

短期経済モデルへの適用

物価や給与といったものは、短い期間ではなかなか変化しにくいものです。一度値上がりしたものが簡単には下がらないように、一度値下がりしたものがすぐには上がらないという硬直性が経済には存在します。このような状況では、需要と供給のバランスが崩れても、価格調整を通じて均衡に戻るまでに時間がかかります。例えば、物が売れ残っていても価格が下がらないため、供給過剰の状態が続き、企業は生産を縮小し、雇用を減らす可能性があります。逆に、需要が旺盛でも価格が上がらないため、供給不足の状態が続き、人々は必要なものを手に入れることが難しくなります。需要と供給を調整する市場の働きが不十分なため、経済は不安定になりやすいのです。

このような短期的な経済の動きを分析する上で、ケインズ経済学は非常に役立つ考え方です。ケインズは、価格や給与の硬直性を前提に、経済の不安定性を分析し、政府が積極的に経済に関与する必要性を主張しました。世界恐慌のように、市場メカニズムがうまく機能せず、深刻な不況に陥った際には、政府が公共事業などを通じて需要を作り出し、経済を活性化させるべきだと考えました。需要が増えれば企業は生産を増やし、雇用も増加します。そして人々の所得が増えれば消費も活発になり、経済全体が好循環に入ります。これがケインズ経済学の考え方です。

政府による景気対策は、現在でも広く行われている政策です。不況時には減税や公共事業などを通じて需要を喚起し、好況時には増税や公共事業の抑制を通じて過熱を防ぎます。ただし、政府の介入には常に効果があるとは限らないことにも注意が必要です。効果的な政策を実施するためには、経済状況を的確に判断し、適切な規模とタイミングで対策を行う必要があります。

長期的な経済

経済というものは、時間の流れの中で常に変化しています。短期的な視点と長期的な視点、どちらにも目を向けることが大切です。有名な経済学者、ケインズは短期的な経済の動きに注目しました。短期的に経済が不安定になるのは、物の値段や給料がすぐには変わらないからだと考えました。

ケインズは、短期的な景気の変動を滑らかにするために、政府が積極的に対策を行うべきだと主張しました。例えば、不景気の時には、政府が公共事業などにお金を使うことで、需要を作り出し、経済を活性化させることができると考えました。

しかし、長い目で見れば、物の値段や給料は需要と供給の関係で調整され、市場メカニズムがうまく働くとケインズも考えていました。需要が多ければ値段は上がり、供給が多ければ値段は下がります。この調整機能のおかげで、長期的には経済は安定すると考えられます。

「長期的には我々はみな死んでいる」というケインズの有名な言葉は、長期的な均衡状態をただ待つのではなく、目の前の問題に真剣に取り組むべきだという考えを表しています。将来の経済状態を予測するのは難しく、遠い将来の均衡状態を待つよりも、今困っている人々を助ける方が大切です。

経済政策を考える際には、短期的な対策と長期的な成長の両方を考慮する必要があります。短期的な景気対策ばかりに注目すると、国の借金が増えたり、将来の経済成長の芽を摘んでしまう可能性があります。一方、長期的な成長ばかり考えて、短期的な景気の落ち込みを無視すると、人々の生活が苦しくなり、社会不安につながる可能性があります。短期と長期のバランスをうまくとることが、経済政策の重要な課題と言えるでしょう。

現代経済への示唆

世界恐慌を契機に誕生したケインズ経済学は、現代経済においても色あせない示唆を与え続けています。世界は、リーマン・ショックや新型コロナウイルス感染症の蔓延といった、想定外の出来事による経済への深刻な影響を幾度となく経験しました。これらは、まるで経済の根幹を揺るがす嵐のようなもので、企業活動の停滞や雇用の減少を引き起こし、人々の暮らしに大きな影を落としました。このような未曾有の事態に直面した時、政府の役割は極めて重要になります。

ケインズ経済学は、政府による積極的な経済政策の必要性を説いています。需要を喚起するための財政政策、例えば公共事業への投資や減税などは、経済の停滞を打破し、雇用を創出する効果が期待できます。また、金融政策による金利調整も、企業の投資意欲を高め、経済活動を活発化させる上で重要です。これらの政策は、不況の波を和らげ、経済の安定を図るための羅針盤となるでしょう。

さらに、現代社会はグローバル化が進み、国と国との経済的なつながりはかつてないほど強固なものとなっています。一国の経済問題が、まるで連鎖反応のように世界中に波及する可能性も否定できません。だからこそ、国際的な協調が重要性を増しているのです。各国が足並みを揃え、協調して政策を実行することで、世界経済の安定化を図り、危機の発生を未然に防ぐ効果が期待できます。私たちは、ケインズ経済学の考え方を参考に、将来を見据えた適切な政策対応を常に心がけ、持続可能な社会の構築を目指していく必要があります。