AUP:合意された手続きに基づく業務

AUP:合意された手続きに基づく業務

投資の初心者

先生、『AUP』って、確か監査とは違うんですよね?でも、どちらも公認会計士がやることで、なんだか違いがよくわからないんです。

投資アドバイザー

そうだね、どちらも公認会計士が関わるけれど、役割が違うんだ。監査は、会社の財務諸表が正しいかどうかを、会計士が責任を持ってチェックすることだよ。一方、AUPは、依頼者が知りたい特定の情報について、会計士が確認して報告する業務なんだ。たとえば、ある会社の在庫の数量とかね。

投資の初心者

なるほど。じゃあ、AUPの場合は、会計士は正しいかどうかを判断するんじゃなくて、ただ確認した事実を報告するだけってことですか?

投資アドバイザー

その通り!AUPでは、会計士は自分が見たり聞いたりした事実だけを報告するんだ。それが正しいかどうかを判断するのは、依頼者の役割なんだよ。

AUPとは。

投資の用語で「合意された手続き」というものがあります。これは、公認会計士が仕事の中で行うことの一つです。公認会計士と依頼主の間で、具体的に何を確認し、どのように確認するかを相談して決めます。そして、確認して分かった事実だけを報告します。つまり、会計監査のように、財務情報が正しいかどうかを公認会計士が判断するために、たくさんの証拠を集めるための計画を立て、財務情報の正しさを保証する、というのとは違います。

はじめに

はじめに

近年、企業活動において、情報公開の重要性が高まっています。それに伴い、公認会計士の仕事内容も幅広くなってきています。企業の財務情報をチェックし、信頼性を保証する会計監査は重要な役割を担っています。しかし、必ずしもすべてのケースで、本格的な会計監査が必要となるわけではありません。状況によっては、特定の項目だけを確認し、その結果を報告するだけで事足りる場合もあります。そのような場合に役立つのが、合意された手続きに基づく業務、つまりAUPです。

AUPは、企業と公認会計士が事前に、確認する範囲や手続きについて合意した上で実施されます。公認会計士は、合意に基づいて必要な手続きを行い、その結果を報告書にまとめます。ただし、AUPでは、会計監査のように、財務情報の全体的な信頼性を保証するものではありません。あくまで、合意された範囲内での確認結果を報告するだけです。

AUPと会計監査の大きな違いは、保証の範囲です。会計監査は、財務諸表全体について、一定の基準に基づいて監査を行い、意見を表明します。一方、AUPでは、特定の項目について合意された手続きを行い、事実を報告するだけです。AUPは、会計監査に比べて、手続きが限定的であるため、費用を抑えることができます。また、必要な範囲だけを確認するため、時間も短縮できます。

一方で、AUPは、会計監査のような保証がないため、利用者側がその結果をどのように解釈し、利用するかは、利用者自身の責任となります。そのため、AUPの報告書を利用する際には、その範囲と限界を理解しておくことが重要です。

AUPは、会計監査ほど厳格な手続きは必要としないものの、企業の内部統制の状況確認や、特定の取引の妥当性の検証など、様々な場面で活用できます。例えば、融資を受ける際の資料として、特定の資産の評価額を確認するためにAUPを利用するケースもあります。また、企業合併や買収の際に、対象企業の財務状況を限定的に確認するためにも利用されます。このように、AUPは、企業活動の様々な場面で、柔軟に活用できる有用な手段と言えるでしょう。

項目 会計監査 AUP (合意された手続きに基づく業務)
目的 財務情報の信頼性を保証 特定項目の確認結果を報告
範囲 財務諸表全体 合意された特定の範囲
保証 一定の基準に基づいた意見表明 保証なし(事実の報告のみ)
費用
時間
利用者の責任 結果の解釈・利用は監査人の責任範囲内 結果の解釈・利用は利用者自身の責任
活用例 財務報告の信頼性担保 内部統制の状況確認、特定取引の妥当性検証、融資資料、M&A時のデューデリジェンス等

手続きの合意

手続きの合意

合意された手続きとは、その名の通り、公認会計士と依頼者の間で、実施する手続きの内容について事前にしっかりと取り決めることを指します。この取り決めは、公認会計士が業務を適切に遂行し、依頼者がその結果を正しく理解するために非常に重要です。具体的には、確認する内容、確認の方法、そして報告書の範囲など、業務の範囲を明確に定めます。

例えば、依頼者が在庫の数量を確認したい場合、合意された手続きの中で、どの倉庫の在庫を、どのような方法で確認するのか(例えば、実地棚卸で確認する、在庫管理システムのデータと照合するなど)を具体的に定めます。また、報告書には、確認した在庫数量のみを記載するのか、それとも在庫の評価額についても記載するのかといった点も事前に合意します。

この合意に基づき、公認会計士は定められた手続きを実行し、その結果を報告書にまとめます。依頼者は、この報告書に記載された事実をもとに、自らの責任で判断を行います。例えば、在庫数量が想定よりも少なかった場合、その原因を分析し、必要な対策を講じるのは依頼者の責任となります。

重要なのは、合意された手続きにおいて、公認会計士は事実の発見と報告を行う役割を担うだけであり、報告された結果について保証をするわけではないということです。これは、財務諸表全体に対する意見表明を行う会計監査とは大きく異なる点です。会計監査では、公認会計士は財務諸表に重大な虚偽表示がないかどうかについて意見を表明しますが、合意された手続きではそのような保証は行いません。したがって、依頼者は報告された事実を理解した上で、自らの判断で意思決定を行う必要があります。

項目 内容
定義 公認会計士と依頼者の間で、実施する手続きの内容について事前に合意すること
目的 公認会計士の適切な業務遂行と依頼者の結果の正しい理解
合意内容
  • 確認する内容
  • 確認の方法
  • 報告書の範囲
例:在庫確認
  • どの倉庫の在庫を確認するか
  • 確認方法(実地棚卸、システムデータとの照合など)
  • 報告書への記載内容(数量のみ、評価額も含むか)
公認会計士の役割 事実の発見と報告
依頼者の役割 報告された事実をもとに、自らの責任で判断・意思決定
保証の有無 公認会計士は報告された結果について保証しない
会計監査との違い 会計監査は財務諸表全体への意見表明を行うが、合意された手続きではそのような保証は行わない

会計監査との違い

会計監査との違い

会計監査と証明業務手続き(AUP)は、どちらも公認会計士が関わる業務ですが、その目的や範囲、報告の内容は大きく異なります。まず、会計監査は、企業の財務諸表全体が適正かどうかを確かめることを目的としています。監査対象となるのは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書といった財務諸表全体です。公認会計士は、監査基準に従って綿密な監査計画を立て、必要な証拠を集めるための様々な手続きを実施します。そして、集めた証拠に基づいて、財務諸表が適正かどうか意見を表明します。この意見は、投資家や債権者など、財務諸表の利用者が企業の財務状況を判断する上で重要な役割を果たします。

一方、AUPは、特定の事項について、あらかじめ決められた手続きを実施し、その結果を報告する業務です。例えば、ある企業が新規事業に投資する際に、その投資対象の資産価値を評価するためにAUPを利用することがあります。この場合、公認会計士は、依頼者と合意した手続きに従って資産の評価を行い、その結果を報告します。しかし、会計監査とは異なり、AUPでは公認会計士は結果の保証や意見表明は行いません。つまり、報告された事実が正しいかどうか、あるいはその事実が何を意味するのかについては、利用者自身で判断する必要があります。

このように、会計監査とAUPは、それぞれ目的や範囲、報告内容が大きく異なるため、利用者はそれぞれの違いを理解した上で、適切な業務を選択する必要があります。会計監査は財務諸表全体の信頼性を高める役割を果たす一方、AUPは特定の事項に関する事実を提供することで、利用者の意思決定を支援する役割を果たします。AUPは、会計監査に比べて限定された範囲の業務であるため、費用や時間も抑えることができます。そのため、目的に合わせてAUPを利用することで、効率的に必要な情報を入手することができます。

項目 会計監査 証明業務手続き(AUP)
目的 企業の財務諸表全体が適正かどうかを確かめる 特定の事項について、あらかじめ決められた手続きを実施し、その結果を報告する
対象 財務諸表全体(貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書など) 特定の事項(例:新規事業投資における投資対象の資産価値評価)
手続き 監査基準に基づいた綿密な監査計画と証拠収集 依頼者と合意した手続き
報告内容 財務諸表の適正性についての意見表明 実施した手続きと結果の報告(保証や意見表明はなし)
利用者の役割 公認会計士の意見を参考に財務状況を判断 報告された事実の正しさや意味を自ら判断
費用/時間

AUPのメリット

AUPのメリット

契約に基づく手続き(AUP)には、いくつかの利点があります。まず、手続きを状況に合わせて柔軟に設計できるという点が挙げられます。会計監査は、あらかじめ定められた基準に従って行われるため、融通が利かない部分が多くあります。一方、AUPは、依頼者と公認会計士が相談しながら手続きの内容を決めるため、それぞれの状況に合わせた対応をすることが可能です。例えば、ある会社が新規事業を始める際に、その事業計画の妥当性を検証したいとします。このような場合、会計監査では対応が難しいかもしれませんが、AUPであれば、事業計画に特化した検証手続きを設計し、実行することができます。

次に、会計監査に比べて費用を抑えられるというメリットがあります。会計監査は、会社の財務諸表全体の信頼性を確かめる必要があり、必然的に多くの手続きが必要となります。それに伴い、時間も費用もかかります。一方、AUPは、特定の目的に絞って手続きを行うため、会計監査よりも手続きの範囲を限定することができます。そのため、一般的に会計監査よりも費用を抑えることが可能です。

さらに、短期間で報告書を受け取ることができるという利点もあります。AUPは、手続きの範囲が限定されているため、会計監査に比べて短期間で作業を完了できる場合が多くあります。そのため、迅速に報告書を受け取り、事業の意思決定に役立てることができます。例えば、企業買収の際に、買収対象企業の財務状況を迅速に把握する必要がある場合、AUPは非常に有効な手段となります。このように、AUPは、状況に応じて柔軟に手続きを設計できること、費用を抑えられること、そして短期間で報告書を受け取れることなど、多くの利点を持つ手続きです。

項目 内容
柔軟性 状況に合わせて手続きを設計できる。依頼者と会計士が相談の上、内容を決定。 新規事業の事業計画の妥当性検証
費用 会計監査より費用を抑えられる。特定の目的に絞った手続きのため、範囲を限定可能。
期間 短期間で報告書を受け取れる。手続きの範囲が限定されているため、作業が早く完了する。 企業買収時の買収対象企業の財務状況把握

AUPのデメリット

AUPのデメリット

公認会計士が関わる証明業務には、財務諸表全体への信頼性を保証する監査と、特定の事項に関する事実の報告である証明業務があります。後者の代表的なものが合意に基づく手続き(AUP)です。AUPは監査と比較して費用や時間が抑えられるメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。

まず、AUPでは、公認会計士は保証を行いません。監査とは異なり、公認会計士は報告された事実に対する意見表明は行わず、あくまで事実の報告にとどまります。そのため、利用者は提供された情報を基に、自ら判断を下す必要があります。これは、監査のように公認会計士からお墨付きを得られるわけではないため、利用者にとって負担となる可能性があります。

次に、AUPは特定の事項に関する事実の報告であるため、財務諸表全体の信頼性を担保するものではありません。例えば、売上債権の残高確認手続きを行ったとしても、それは売上債権の正確性を示すものであって、会社の財務状況全体の健全性を保証するものではありません。利用者はこの点を十分に理解し、AUPの報告内容を限定的に解釈する必要があります。会社の全体像を把握するためには、他の情報源も活用する必要があるでしょう。

さらに、AUPで実施する手続きは、依頼者と公認会計士の合意に基づいて決定されます。そのため、手続きの妥当性や網羅性について、依頼者と公認会計士が事前に綿密に協議し、検討することが非常に重要です。もし、必要な手続きが不足していたり、適切でない手続きが選択されていた場合、得られる結果は不十分なものとなり、利用者の判断を誤らせる可能性があります。事前に綿密な計画と、公認会計士との十分なコミュニケーションが不可欠です。

このように、AUPは手軽に利用できる一方で、利用者自身による判断が必要となること、財務諸表全体への保証がないこと、手続きの妥当性や網羅性を事前に慎重に検討する必要があることなど、いくつかのデメリットが存在します。AUPを利用する際には、これらのデメリットを十分に理解し、その限界を認識した上で、適切に利用することが重要です。

項目 内容
監査 財務諸表全体への信頼性を保証
証明業務 特定の事項に関する事実の報告
合意に基づく手続き(AUP) 証明業務の一種
AUPのメリット 費用や時間が監査より抑えられる
AUPのデメリット 公認会計士は保証を行わない
財務諸表全体の信頼性を担保するものではない
実施する手続きは依頼者と公認会計士の合意に基づいて決定されるため、手続きの妥当性や網羅性について事前に綿密に協議・検討が必要
AUP利用時の注意点 デメリットを十分に理解し、限界を認識した上で適切に利用

AUPの活用事例

AUPの活用事例

合意された手続きに基づく業務(AUP)は、会計監査とは異なる目的で、状況に応じて柔軟かつ効率的に利用できるツールです。企業活動における様々な場面で活用されており、リスク管理や意思決定の質を高めることに役立っています。

企業買収の場面では、買収対象企業の財務デューデリジェンスにおいて、AUPは重要な役割を果たします。例えば、買収対象企業が保有する特定の資産(例えば、土地や建物、在庫など)や負債(例えば、借入金や未払い金など)について、AUPを用いて詳細な調査を行うことができます。これにより、買収価格の妥当性を評価し、買収後の経営計画を策定する上で必要な情報を取得することができます。また、買収対象企業の内部統制の状況についても、AUPを用いて検証を行うことができます。これにより、買収後に想定されるリスクを把握し、適切な対策を講じることが可能となります。

特定の資産の評価においても、AUPは有効な手段となります。例えば、金融機関が融資を行う際に、担保となる資産の価値を正確に把握するために、AUPを活用することができます。また、企業が資産の売却を検討する際にも、売却価格の妥当性を判断するために、AUPを用いた評価が役立ちます。

内部統制の評価においては、特定の統制活動の有効性について、AUPを用いて検証を行うことができます。例えば、企業が売上計上に関する統制の有効性を検証する場合、AUPを用いて売上伝票と出荷記録の突合を行うことができます。これにより、売上計上の正確性を確認し、不正な計上を防止することができます。

このように、AUPは会計監査とは異なる目的で利用されます。会計監査は、財務諸表の信頼性を担保することを目的としていますが、AUPは、特定の事項について、利用者のニーズに合わせて、柔軟に手続きを設計し、実行することができます。状況に応じてAUPと会計監査を使い分けることで、より効果的なリスク管理や意思決定が可能となります。

場面 AUPの活用例 メリット
企業買収 買収対象企業の財務デューデリジェンス(資産・負債、内部統制の調査) 買収価格の妥当性評価、買収後経営計画策定、リスク把握と対策
特定の資産の評価 担保となる資産の価値把握(金融機関の融資時)、売却価格の妥当性判断(資産売却時) 正確な資産価値の把握、適切な価格設定
内部統制の評価 特定の統制活動の有効性検証(例:売上計上に関する統制) 不正防止、統制の有効性確認